オープンソース映像という発想

1.概念

オープンソース映像」とはオープンソースのソフトによって制作された映像を指す言葉ではない。ここでの「ソース」は映像の素材を指す。つまり、映像そのものだけではなく、素材やシーケンスファイル*1も同時に公開することを意味する。
概念自体は新しいものではない。例えば、Flashムービーはベクターデータとタイムラインデータ(シーケンスファイル)で構成されているため、素材(ベクターデータ)を差し替えることによって派生物を作り出すことができる。これまでもスキマ産業氏の「num1000」のREMIX企画においては、ソース(.fla)が公開されていた。ニコニコ動画で人気のあるFlash、『魔理沙は大変なものを盗んでいきました』は膨大な量のマッシュアップが存在するが、なかには素材差し替えによって作られたものも少なくないと考えられる。(.swf→.flaへの書き戻しは技術的に可能なため)

2.背景

これが可能になる背景には、ハードウェアの面ではブロードバンドの普及、サーバーの大容量化などが挙げられる。
それに加えて、心理的なハードルが下がったことも挙げられる。創作者にとって、自作を改変されることを好ましくないと感じることもしばしばであるが、コンテンツがデジタル化するに伴い、技術的な土台ができるにつれて抵抗感が徐々に弱くなった。特にニコニコ動画においては投稿された作品同士のマッシュアップ、さらにはマッシュアップされたもの同士をさらに組み合わせるなど、作品の改変については寛容な空気がある。さらには投稿者自らが自作を「素材」としてアップロードすることもある。

また、各種コンテンツのオープンソース化を促進する要素の一つとして、昨日発売された「鏡音リン」が挙げられる。例えば、既に「初音ミク」を所有しているユーザーが、「鏡音リン」を買った新規ユーザーに対して、「自分が作ったオリジナル曲をリンに歌わせてみて欲しい」とミクのシーケンスファイル(.vsq)を公開することなどが考えられる。

3.実践

しかし、シーケンスファイルを公開・共有するにあたって、それぞれの動画編集ソフト間に互換性がないという問題がある。画像処理ソフトのPhotoshopのように、業界標準とされているソフトが動画編集の分野においては存在しない。3DCG分野でも圧倒的なシェアを持つソフトはないが、各ソフト間である程度の互換性が保たれている。そこで注目したいのが「ニコニコ動画(SP1)」*2で公開予定の動画編集ソフトである。もちろん、PremiereやAfterEffectsなど高度なソフトを使いこなす層がシフトするとは思えないが、ムービーメーカーで作業しているようなライト層に使ってみようと思わせることは十分可能なのではないか。
ニコニコ動画にはソース(素材)になりうる動画が大量に投稿されている(アニメ本編などを含めて)。ならば編集はローカル環境で行い、シーケンスファイルのみをニコニコ動画にアップロードすることで、Flashのようにブラウザ上でリアルタイムにレンダリングすることができるのではないか。もちろん重い処理は困難だろうが、(マッシュアップ物にありがちな)同時再生や倍速再生、切り張り程度の編集ならば可能だと思う。

留保と言う名の言い訳

あくまで発想であって実現はしないだろう、と思っている。凝った編集をするほど素材は膨大になり、処理は重くなっていく。でもビジョンを示すことは無駄ではない。
ついでに妄想を広げるなら音楽CDにはミックス前の各トラックを別々に収録して欲しいし、アニメDVDには作画と背景と特効を別々に収録して欲しい。ゲームは背景とキャラポリゴンとBGMと音声を抽出可能に。
だってその方がMAD作りやすいから。「一枚一枚手作業でキーイングしてこそ」という意見もあるのは知ってるけど。
要素還元可能なのがデジタルの良いところじゃないだろうか。せっかく世界中のコンテンツがデジタル化しているというのに。

最近はオープンソースとニコ動がそのコミュニティの類似性によって結びつけて語られることが多い。しかしここで述べた「オープンソース映像」は本来ニコ動上に限定されるものではない(し、限定されるべきではない)。ただその実現性において現在もっとも適切なのがニコ動だと考えた。

*1:いわゆるプロジェクトファイル。Flashでいうところの.fla、ミクでいう.vsq、ムービーメーカーの.MSWMM

*2:12月に予定(ソース) 今回のメンテで実装か?